西川知明 | 有限会社西川ベンダー
2021. 09. 30.
Text: photo creation pupa
Photo: photo creation pupa
突然ですが、みなさんは「ベンダー」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?溶接やプレスとは違い、少し聞き馴染みのない言葉かもしれませんね。ベンダーとは曲げ加工技術の一種。金型に合わせ機械でいろいろな形に曲げを行なっています。そんな曲げ加工技術「ベンダー」を社名につける西川ベンダー。板材から細い棒状の鉄材まで幅広く行えるベンダー加工ですが、西川ベンダーは管材の曲げを専門に担っています。西川ベンダーの専務、西川知明さんにお話を聞きました。
現場作業がメインの業務だという西川さん。パイプや棒状の管材の曲げを行なっています。材質によって曲がる時の性質が異なるため圧のかけ方を変え、傷や凹みをいかに少なく曲げるかを考えながら曲げを行なっているそうです。
「ベンダー加工は、製造工程のはじめの段階。図面が送られてきても最終製品が何になるかわからないものが多いです。車の内部部品やホースリールとかになっているのかな」
仕事のほとんどが外注からの依頼。製品工程の初期に当たる曲げ作業は、後の工程がつまらないように品質管理や納期管理をするのも西川さんの役目だそうです。
西川ベンダーに入職して28年。高校を卒業してすぐに入職したのは、「早く家業に入った方がスムーズに仕事も覚えられていいかな」と思ったから。幼少期から自分の代で2代目になる西川ベンダーを継ぐのが当たり前だと思っていたそうです。西川さんが小学生の頃に父親が創業し、当時は猫の手も借りたいくらいの忙しさだったといいます。小学3、4年生になると長期休みや放課後に工場にきては仕事を手伝っていたという西川さん。工場にいることは幼い頃から日常の一部で、継ぐのが嫌だとか思うこともなくスムーズに家業に入ることができました。
「自分の父は人付き合いが得意なので、営業や外回りはほぼ父に任せています。自分はそういうはどうも苦手なので敵わないなと思います。仕事の面では追いついたつもりですが、まだまだ社長にやってもらいたい仕事はたくさんあるので死ぬまで現役で居続けて欲しいです」
いずれは後を継ぐ西川さんは自分の父である社長に対しの思いをこう語ってくれました。
「とはいえ、人と人との付き合いが上手くないと仕事が回らないのでそれは自分自身の課題でもあるんですけどね」と西川さん。自分自身の課題を把握した上で、2代目として会社を受け継ぐ志を少しだけ見せてくれました。
従業員は基本的に残業なし、いかに時間内に効率よく仕事を回すかが自分の役目だとも語ってくれました。同じ時間内でも作業量や出来上がりに個人差があるのでその人に向いている仕事を割り振ることも大事な役割です。管材の曲げは大きくなればなるほど難しく、薄くなればなるほど割れやすくなる。金属の材質によっても違いがあるので、機械に任せて全部できるわけではなく、力の入れ方だったり、セットの仕方だったりで製品の良し悪しが変わります。曲げている途中で割れたり、折れたりすることもあります。アルミは割れやすく、ステンレスは加工が難しい。素材や長さ、厚みによって曲げの数値を決めるのは経験によって少しずつ養われていくそう。「慎重し過ぎてもダメだし、思い切りが良すぎてもダメな感覚的な仕事になってしますので教えるのがとても難しいです」と西川さんは教えてくれました。
単工程の工場は大手とは違い、横の繋がりが重要になってきます。以前はプレス、曲げ、溶接、研磨、塗装、梱包とそれぞれの業者が横のつながりでやっていました。しかし、今は全てを自社でまとめるところが強くなり過ぎて単工程の小さな工場では買い叩かれてしまっているそうです。
「三条市のようにものづくりの盛んな街では小さい工場でもいい技術を持っているところがたくさんあることを知って欲しい。市内には、まだ一つの加工だけやっている工場が多いので、今後はできる技術を持ち寄って新しいものづくりの形に参入していきたいですね」
単工程の工場はいかに新しく、多様な加工のできる機械を持っているかどうかで仕事の幅も変わってくるといいます。三条市近郊でいったら西川ベンダーでしか出来ないような曲げ加工があるのだとか。それは機械を持っているかどうか。個人の技術も必要ですが、それ以上に機械の能力差は大きいものです。
「父が借金をしてでも設備投資して機械をどんどん入れてくれたおかげで他のベンダー屋に比べたら機械の種類も数も豊富です。借り入れをして機械を入れて、それで売上を伸ばして、また借り入れをして、と何度も繰り返していたみたいです。父が創業したころは作れば売れる時代だったから機材投資はいろんな曲げができる機械を揃えていったんだと思います」
「公園の柵や手すりなどパイプが曲がっているものを見るとつい反応してしまうのは職業病かもしれません」と笑う西川さん。今よりもっと面白い形に、もっと綺麗に曲げられないか。日常生活でも自分の仕事のことが気になるそうです。控えめな性格が見受けられた西川さんが社長である父を立てつつ、自分の目指すものづくりへの熱い思いが感じられる取材となりました。
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