後藤敬 | 株式会社後藤鉄工所
2021. 09. 02.
Text: photo creation pupa
Photo: photo creation pupa
金属の棒に刃を当て削り出す、旋盤加工。シャフト加工を得意とする後藤鉄工所はNC複合加工機やマシニングセンタ加工機など多様な設備が並びます。ものづくりをとにかく楽しみ、難解な加工に挑み続ける後藤鉄工所専務取締役の後藤敬さんに話を聞きました。
現在、専務の役に就く後藤さんに普段の仕事内容を聞いてみました。すると、返ってきた答えは「全部です(笑)」と。現場に出て製品を作るだけでなく、検査や梱包まで。配達や営業などの外回りとオールマイティーになんでもこなしているそうです。
「なんでもやりすぎてあっという間に1日が終わっていきます。本当は現場に出てものづくりしている時が一番楽しいんですけどね」
そう苦笑いをしながら話してくれました。しかし、以前に比べ外に出る営業はだいぶ減ったそうです。それは発注先が頼みやすいように自社のホームページを制作したから。ホームページのトップ画面では、製品の形状や加工内容を選択すると最小ロットが表示され自動で単価を計算してくれます。このページを作ったことで遠方からの見積もり依頼も増え、発注につながるケースが増したといいます。
現場に出てものづくりが楽しいという後藤さんですが、いつから家業に入ることを意識していたのでしょうか。聞くと、小さい頃から祖母は継いで欲しいと思っていたのかこう言われていたそうです。
「今、思えば刷り込みみたいなものです。上に姉がいるので、基本的になんでも姉のお下がりでした。それが子供心にとても嫌で、自分だけのものが欲しいと思っていました。そんな私に祖母は『ここの場所はお前にだけにあげるからね』なんて工場に行くたびに言われて。よくわからないけど、自分だけのものだって嬉しくなっていたんです」
元々は工場の隣に自宅があり学校から帰ると工場や事務所に来ていたと言います。夕方になれば荷造りを手伝ったり、荷物の配達について行ったりと工場の仕事は日常の一部でした。
高校卒業後、東京の工業系の大学へ進学した後藤さん。大学ではバイトと部活動の卓球に明け暮れる典型的な都会の大学生を満喫したそうです。それでも、いずれ家業を継ぐことを念頭に金属加工技術の一つ、切削の研究室に入っていました。
このように後藤さんは家業に関する勉強を進めていましたが、大学卒業まで父親から継いで欲しいと言われたことはなかったそうです。自分としては家業を継ぎたいとは思っていても勝手に帰るのも気が引ける。卒業前に父親に「帰っていいなら家業を継ぐし、帰る必要がないならこっちで就職先を探す」と相談したところ、帰って来てもいいと言われたので家業に入ることになりました。
「昔から継いでもいいし、継がなくてもいいとは言われていました。きっと会社も先細りでどうしようもない状況なら継がせないって言ったと思いますけど、任せてもいいって思ったんじゃないでしょうか。言わないけど、本当は継いでくれて嬉しいと思いますよ」
大学を卒業後、工場長の勧めで実家の取引先の企業のところへ修行に出た後藤さん。1年の予定でしたが、一通りの技術習得や、各種資格の取得まで面倒を見てもらい、結局1年半お世話になったといいます。
通常、工場に勤務しながら機械の扱い方を勉強するにしても、日々の仕事の合間を縫って自分で学ぶしかありません。短期間に集中して先輩の職人から教えてもらうことは難しく、習得するまでには時間がかかるもの。それを時間を割いて教えてもらえたことは、職人人生においてかけがえのない財産になったといいます。
「突然帰って来てもここまでできなかった。0を1にするのってとても大変で、触ったことがない機械を使いこなせるようになるまでが一番難しいんですよ。まず知識を入れて1にしてもらえれば、時間をかけて自力で100まで持っていくことができる。その『1』を学ぶ機会をもらえたことは本当にありがたかったです」
「人が困っている仕事をする」、これが後藤さんの仕事の思念です。困りごとだからだいたいは他のところで断られたような厄介な仕事が多い。それでも人が困っている仕事は自分たちの思い入れもある仕事に変わるので、信頼関係もできやすく、困ってる時にお互い相談もできるし、良好な人間関係が作りやすいといいます。
「ややこしい仕事が多いから自分自身のレベルアップにもなるけど、面倒すぎて従業員から『また変な案件持ってきたのか』と言われますね」
寸法が安定しない、切削している刃が消耗するなど品質と精度が安定しないものが多く、そこをどう安定させるか、時間の消耗をせずいい塩梅にするのかが厄介だそうです。しかしその厄介な仕事は自社のレベルアップになり次の仕事に生かされて会社としても成長を続けることになるのです。
請け負う仕事の多くは、車やロボットの部品のほんの一部。しかし、そのパーツがあるからこそ世の中の人の生活が豊かになるのです。今後は最終製品まで携わる仕事にも携わりたいと熱意を見せてくれました。
取材をしている中で特に印象深かったことは後藤さんのものづくりに対する姿勢です。とにかく難しいと思われるものを作るのを楽しみに変え、チャレンジ精神が旺盛な姿はまるで新しいおもちゃを手にした子供のよう。難しい加工も楽しむ心を持っているからこそ、できる加工の幅が広がっていくように感じました。
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