カワコッチ

川越健矢 | 株式会社アークリバー

2021. 09. 02.
Text: photo creation pupa
Photo: photo creation pupa

溶接とは金属を溶かして、金属同士を接合する技術。その歴史は古く、日本では弥生時代には溶接技術があったといいます。溶接技術は建物や車といった大きな構造物から、機械部品やアクセサリーといった小さな物まで加工する製品の幅は多岐に渡ります。溶接を専門に行うアークリバーの川越健矢さんに話を聞きました。

溶接作業とともに、事務作業や外回りもこなす川越さん。アークリバーでは主に歩行器や杖などの介護用品にまつわるものや、建築金具や工具を溶接しています。

「溶接は製品を作るほんの一部の工程ですが形を作る上でとても重要な工程です。金属と金属をくっつけるだけの作業ですが、とても奥が深いんです」

金属同士を接合させて形にするという単工程であるが判断を誤りきちんと接合できていなければ荷重をかけた時に壊れ大事故につながる。とても神経を使い、正確性を求められる重要な工程なのです。

20歳の頃にアークリバーに入職した川越さん。高校を卒業してから工科大学へ進学し、プログラミングを勉強。姉兄がいて自分が末っ子だったこともあり、家業を継ぐことは幼い頃からあまり考えていなかったと言います。

「会社を継ぐということをあまり考えていなかったので、後々役に立つかなと思ってプログラミングを専攻しました。実際はやればやるほど自分が本当にやりたいと思う事とは違うと思いましたね」

大学2年の時、父である社長から会社が忙しいので仕事を手伝ってもらえないかと相談を受けます。川越さんが20歳の時、父親が60歳。このまま大学で4年間勉強している間に父は仕事ができなくなるかもしれない。それなら自分が家業に入って仕事を覚えたいと思ったそうです。

幼い頃は父の仕事について何も思わなかったそうですが、自分が同じ目線で同じ作業をするようになると改めて父の凄さがわかったといいます。この技術で自分は育ててもらったんだなと実感した瞬間だったそうです。

自分を育ててくれた技術を早く身につけ、親に恩返しをしたいという川越さん。いつかは父親を超える溶接工になりたいと目標を語ってくれました。「父親はもう50年以上溶接をしているので、自分が追いつくのは80歳くらいになっているかもしれないですけどね」と笑いながら話してくれました。

アークリバーの特筆すべき溶接技術はマグネシウム溶接。マグネシウムの加工は歴史的にまだ浅く、文献も研究例も少ないことから自分たちでやり方を模索し、トライアンドエラーの繰り返し。加工自体は難しい素材ではありませんが、マグネシウム自体が発火する危険もあるそうです。まだ伸び代のある素材で、手はかかるけどそれを攻略するのは面白く感じると川越さんはいいます。

一方で川越さんは、年々人材確保が難しくなっている溶接業の未来も憂いています。
工場は3K。汚い、キツい、危険。特に昔の溶接業は火花が飛んできて火傷したり、煙を吸って喉が痛くなったこともあったそうです。しかも、溶接をする時に出る強い光は紫外線。皮膚を保護しながら作業するので年中長袖長ズボンです。想像するだけでも子供が憧れる職業にはならないんだろうと川越さんはいいます。

「一見すればキツそうで辛い仕事と思われますが、溶接は楽しいのです。金属をくっつけるという単純なことをやっているんだけど、ただくっついて、取れなきゃ大丈夫ってものではなくて、品物一つ一つに合わせ、手のスピードや電気調節を行いながら見た目が美しく、強度の強いものが作れるかが重要となりますより困難な品物を溶接して、スキルレベルが上がっていけばいくほど、楽しくなってきます」

経験を積み知識を得てくると怖くなることもあります。溶接は他の金属加工に比べ、機械ではなく人間が作業する割合が高いといいます。ロボットは数値さえ間違わなければ数値通りに作業をしてくれますが、人間がやるときはいくら計算しても手作業なので自分の感覚や経験値が大事になります。同じ作業でも、作業する人間が変わるだけで溶接の品質が変わります。溶接は手作業の割合が多いからこそ、熟練者でも初心者でも同じ品質が出せる仕組みづくりや、フォローし合えるチームワークが大切な世界です。

そんな溶接の奥深さに魅力を感じる川越さんに今後の展望を聞きました。

「自分を常に疑って、満足しないこと。永遠に修行というか、自分を日々鍛え上げる感覚です。スポーツ選手が技術を磨いていく感覚に近いかも。溶接は製品作りのほんの一部で、あくまで縁の下の力持ち的な役割です。その溶接があるから成り立っているんだよって知って欲しいし、溶接技術が少しでもお客様の笑顔に繋がれば嬉しいですね」

製品を作る過程の一工程にしか過ぎない溶接ですが、線材や板材を成形する作業なのでそれまでの工程のしわ寄せがくる。寸法が甘かったり、曲げが弱かったりするのを溶接でフォローすることもあるそうです。『溶接は脇役であり、引き立て役』と話を聞く中で何度も口にしていた川越さん。常に自分を疑い、慢心せず技術を高めていく川越さんと、影の立役者である溶接という仕事がどこかリンクしたように感じました。