カワコッチ

五十嵐大樹 | 三条工具株式会社

2021. 09. 02.
Text: photo creation pupa
Photo: photo creation pupa

ステンレスをはじめ、鉄、アルミ、チタンなどの板金加工を行う株式会社三条工具。曲げ加工と溶接を一社で担っています。板金の厚さも大きさも多様な注文に対応。溶接加工は技能賞を受賞する職人がいるほど高精度な技術を持っています。そんな三条工具に勤める五十嵐大樹さんに話を聞きました。

普段は現場に出て、曲げ加工や溶接をしている五十嵐さん。入職して7年、最近は製品開発や試作に関する業務も任されるようになったそうです。

「企業からきた図面を元にどうやって製品にしていくかを考えます。今まで作ったことのないものをどんな金型で、どのくらい曲げてとか考えるんですがなかなか思うようにいかなくて大変です」

そんな時に、頼りになるのは職場の先輩方。もっとこうしたらいいんじゃないか、ここはこれではダメだなど意見交換しながら新製品を作る過程は難しいこともあるが面白さの方が勝っていると教えてくれました。

五十嵐さんの経歴はあまり聞かないもの。地元で親交のあった先輩が美容師になり、若くして自分の店を出していたことに憧れを抱き、工業高校を卒業してから美容師の専門学校へ進学。美容師の資格をとり、数年美容師として働きましたが結婚を機に美容室を辞めたそうです。その後は、接客業に興味があったこともあり喫茶店で勤めることに。その頃に子供ができ、喫茶店だけの収入だけでの子育てに不安を覚え奥様の実家に相談します。五十嵐さんの義理の父は三条工具の先代の社長。その社長からうちで働かないかと誘われたのを機に、三条工具で働くことを決心したそうです。工場での勤務経験のない五十嵐さんは「周りが優しく教えてくれたおかげで慣れない仕事にも打ち込むことができてありがたい」と語ってくれました。

平板の曲げと溶接を行う三条工具の扱う素材は鉄とステンレスがメイン。薄くなればなるほど難易度は増し、曲げても角度が出しにくかったり、溶接しても穴が開いたりするそうです。0.5mmの薄い平板を加工することもあって、加工が難しくて慣れるまではかなり大変でしたと五十嵐さん。

ものづくりとは無縁な仕事をしていた五十嵐さんですが、今では日常に使われているモノがどうやって加工してあるかが気になるようになったといいます。

「家具屋に行った時、金属でできた組み立て用の椅子とかハンガーラックにネジを止める箇所があるじゃないですか。そこってパイプがネジ穴の周りが少し凹ませてあるんです。それってどうやって加工するのか金型屋さんに聞いたりしてどうやって加工するか考えながら見ちゃいますね」

三条工具で作られる製品はエンドユーザーの手元にすぐに届くものが多いそうです。代表的な製品はマンションやアパートなどの集合住宅のポスト。一回の受注で1000〜2000個のポストを作ることもあるそうです。そうなった時に1000個のうち1個でも不良が出ると、いくら1/1000の確率でもお客様が残念な気持ちになってしまう。だからこそ、品質と精度を保つことを第一に考えているそうです。

新潟県刈羽村出身の五十嵐さんは自分が生まれ育った町と三条市ではだいぶ違いがあったと言います。刈羽村の産業は桃などの果樹がメインなので町工場の多さに驚いたそうです。金属加工の町の三条に来て、工場同士の横の繋がりの重要性に気付いたととも言います。三条工具を選んでくれたお客さんのためにも基本的には仕事の依頼は断らない、できるように工夫する努力を惜しみません。

「発注してもらっても納期の期間が短いとか、うちの機械だと難しいとかいろんな課題が出てくることがあります。そんな時は他の会社さんに加工をお願いしたりしないといけないので横の繋がりって大事だなと思っていますし、加工をお願いする会社さんについて知るのもまだまだ勉強中です」

今は自社製品の開発を自分主導で任されています。受注を受けて作っている製品がもちろんメインの仕事にはなります。しかし、せっかく持っている技術を自社ブランドとして作り出したいと思いを巡らせているそうです。自社製品ではどんなものが作りたいか聞いてみると「メインじゃないものが作りたいです」と五十嵐さん。キャンプ用品ならテントや焚き火台やコンロ台がメイン商品。それとは別のペグやハンマー、テントにつけられるフックなど脇役だけどあったら便利で手に取りたくなうような商品を目指しています。

「1年に1個は自社製品をリリースして、シリーズとして面で見せられるようにしたいです」

休日にお子さんと一緒にキャンプや釣りに出かけることもあるそうなので、そこからの着想にも期待できそうです。

別の業種を経験し、別の土地から三条へと来た五十嵐さん。美容師を続けたい気持ちがなかったわけではないが、実際に働くと今の仕事の方が合っていたと言います。コツコツと作業をしているのが好きで、ものづくりの仕事には楽しさや、やりがいを感じるそうです。いずれ、外回りも任されることになった時、接客業の時の経験が生きて来るかもと笑って話してくれました。